キリンサイ養殖&利活用支援事業

広大な海域を使ったキリンサイ養殖事業
広大な海域を使ったキリンサイ養殖事業

♣事業の概要



沖合の養殖海域に向う準備中の漁民
沖合の養殖海域に向う準備中の漁民

経済発展の陰で人為的な海洋汚染や異常気象に翻弄されて苦しむインドネシアの零細漁民の生活向上を支援するプロジェクトです。 

       

セランガン島(バリ島に属する人工島)でのパイロット事業を皮切りに、現在はスンバワ島で支援活動を推進しています。

 

環境悪化から漁獲量が減少して困窮した零細漁民の中には生活の必要から違法な漁、健康を損なう危険な海藻採取などに走る者も多く、支援を必要としていました。

 

ALL Net は、これらの漁民を対象に海藻の一種であるキリンサイの養殖技術、およびキリンサイを使った商品開発指導を軸に支援活動を行っています。

 

このプロジェクトは、外務省の日本NGO連携無償資金協力制度を活用しています。  

キリンサイ(麒麟菜)とは?

種苗(左)と収穫したキリンサイ(右)
種苗(左)と収穫したキリンサイ(右)

熱帯から亜熱帯を生息域とする海藻で、成熟すると赤っぽい色となる紅藻類に属し、リュウキュウツノマタ(琉球角又)ともいわれています。海産資源としてフィリピンが世界の生産量の約80%を占めています。

 

キリンサイはそのまま食用になるほか、乾燥させてカラギーナンという有用な工業原料(粘質多糖類)を抽出することができます。カラギーナンにはゲル化性があり、ハムやゼリーなどの食品加工、増粘性によるインクジェットプリンター用インク製造、清澄剤としてビールや化粧水の透明化など多方面の用途に利用されており、キリンサイは世界で年間250万トン(原藻乾重量)以上の安定需要があります。

フェーズ1:キリンサイ養殖技術指導

(Sustainable Livelihoods Program for Struggling Fishers)

◆2010年 セランガン島(バリ島の一部)にてパイロット事業を実施 

 

◆2012年 外務省プロジェクト【SULF1期】 セランガン島

セランガン島では600世帯中100世帯を対象に支援し、村長から「死んでいた海が生き返った」と、感謝の言葉をいただきました。

 

◆2013年 同【SULF2期】 スンバワ島フウ村

◆2015年 同【SULF3期】 スンバワ島トロカロ村、ソロ村

スンバワ島では350世帯2000人を対象に支援しました。

キリンサイ種苗寄贈
キリンサイ種苗寄贈
養殖筏設計・製作指導
養殖筏設計・製作指導
種苗育成指導
種苗育成指導
収穫・乾燥・保管指導
収穫・乾燥・保管指導
各種セミナー実施
各種セミナー実施

フェーズ2:キリンサイ利用技術指導

◆2016年~外務省プロジェクトELWIS

海藻養殖事業を基盤とする零細漁村の女性による自然環境に優しい保健衛生を考慮した新生活スタイル構築プログラム 

Building an environmentally friendly life style by the women’s initiative in poor villages involved in seaweed culture)

 

SULFプロジェクトに続き、持続可能な生活向上に向け、キリンサイの付加価値向上を目指した商品開発の第一歩として、キリンサイを使った食品や石鹸を試作し自ら使うように指導し、ライフスタイルの変化を促しました。

◆2017年~同HEWIS

零細漁村の女性によるキリンサイを活用した健康・環境回復プログラム

Health and Environmental conservation Program by the women involved in seaweed culture) 

 

ELWISプロジェクトで試作した食品、石鹸や化粧品の質的向上とバリエーション拡大といった付加価値向上策を主として指導してきました。あわせて、この地域特有のゴミ問題という環境課題に自ら取り組むように指導しました。

女性の就労促進指導
女性の就労促進指導
リーダー育成
リーダー育成
女性のネットワーキング
女性のネットワーキング
キリンサイ利用商品化指導
キリンサイ利用商品化指導
環境問題の意識化指導
環境問題の意識化指導

♣支援のきっかけは?



現地行政機関との協議
現地行政機関との協議

インドネシア事情に詳しいコンサルタント(OAFIC社)とのミーティングにおいて、同国では沿岸漁業で生計を立てている零細漁民が多く、昨今の異常気象などが原因で漁獲量が減少してしまい、困窮した生活を余儀なくされているとの情報を入手しました。

 

そして彼ら零細漁民は、やむにやまれず違法な漁法(ダイナマイトを使った漁)や健康を損なう危険な手段に訴えていることもわかりました。

 

この問題にALL Net が支援できる可能性を感じ取ったのです。コンサルタントと支援策を協議する中でキリンサイ養殖支援というアイディアをいただきました。

 

早速現況を調査し、キリンサイ養殖が細々と始まっていたバリ島内のセランガン島でパイロット事業をスタートしました。

この成功から、キリンサイ養殖が普及していない近隣のスンバワ島支援に拡大しました。

♣インドネシア側のニーズは?



スンバワ島の海岸を埋め尽くす多量の漂着ごみ
スンバワ島の海岸を埋め尽くす多量の漂着ごみ

現在支援しているスンバワ島ドンプ県は、大きな湾の最深部に位置しており、波の比較的穏やかな地域です。

 

漁民は生業の沿岸漁業やキリンサイ養殖の他、トウモロコシ栽培などで半農半漁で生計を立てていましたが、温暖化や多量のごみ漂着などの海洋汚染が原因で漁獲量が減少し、特に零細漁民は厳しい立場に追い込まれてしまいました。

 

そのため、違法なダイナマイト漁を行う者、コンプレサーを使った危険な潜水方法でホンダワラ等の海藻採集を行う者、あるいは漁業を捨てて山間部での違法な樹木伐採に移行する者が多発し、大きな問題になっていました。

 

一方、キリンサイ栽培は、十数年前から大雨や洪水など異常気象が多発し、これが海水温度を急激に低下させ、日照率の減少も相まってキリンサイに病気が発生して大きな被害を出すようになってしまいました。

 

これら困窮する漁民に対して現地行政がさまざまな支援策を行っていましたが、キリンサイ収穫量は減少しており、喫緊の課題となっていました。

♣課題と解決策は?



課題-1 キリンサイ養殖事業拡大への漁民の抵抗感

キリンサイ固定用ロープを整備する漁民
キリンサイ固定用ロープを整備する漁民

キリンサイは環境が安定すれば、ほぼ1.5か月サイクルで収穫できます。種苗は収穫物の一部を再使用すればよいので、このサイクル間は種苗費がかかりません。しかし、この地方は乾季と雨季の差が顕著であり、雨季は海水の塩分濃度低下により極端に生育が悪化するので養殖に向かず、養殖はほぼ乾季(4月~11月)に限られています。そのため、乾季のスタート時点で必要な種苗は他から調達する必要がありますが、事業拡大のために多量の種苗を買う経済的な余裕が零細漁民にはありませんでした。また、従来から養殖は不安定であったため事業の拡大には 抵抗感が根強くありました。

 

 

スタートアップとして種苗を寄贈し、従来の行政指導とは違う、きめ細かい指導を継続的に行うことで養殖を安定させ、早期に収入増を実現して、漁民のモチベーションを高めることに成功しました。漁民の中には漁業からキリンサイ養殖に転換する者も出てきました。

課題-2 キリンサイ養殖技術

生育状況をチェック
生育状況をチェック

当時ALL Net には、海藻養殖技術に詳しいスタッフはいませんでした。 

海藻養殖に詳しいコンサルタント(OAFIC社)にメンバーに加わっていただき、ALL Net スタッフが技術を学びました。この分野では最も進んでいるフィリピン大学からも指導を受けています。自然環境に大きく左右される養殖事業を安定させることは並大抵のことではありませんが、日々、試行錯誤を続けています。

課題-3 病気対策

キリンサイを固定する50mロープ(海面下)とそれを支える”浮き”
キリンサイを固定する50mロープ(海面下)とそれを支える”浮き”

キリンサイにはアイス・アイス病という特有の病気があり、発生すると広域で被害を受け、商品として販売することができなくなる厄介な病気ですが、この原因は現在のところ解明されていません。

発病を防止するにはキリンサイの健康状態を良好に保つことが必要です。試行錯誤の結果、

 

◆良質な種苗を選ぶことが最も重要

◆大雨や洪水の際は光合成の可能な範囲でキリンサイを海面から遠ざける(深いところに移動)

◆大洪水のときは種苗を良好な海水の場所に移動させる

 

といった対策を行っています。

課題-4 自立的・持続的な生活向上活動

活性化した女性グループ
活性化した女性グループ

キリンサイを軸とする生活向上を促進するためには、種苗に投資できる経済的な余裕を確保し、キリンサイの付加価値向上によってさらに収入増をめざすための商品開発を自分たちで推進する基盤づくりが必要でした。 

これには、漁民たちの生活に役立つ商品を作ることが効果的だと判断しました。そのため、キリンサイを使った石鹸や食品といった身近な商品づくりに、初めから女性に参加してもらい、コミュニティを形成して自発的な活動が行えるように指導しました。この活動に女性たちは興味を持って取り組み始めました。

課題-5 環境・衛生対策

この地域は海岸も内陸部も、増え続けるごみ、という大きな環境問題を抱えており、それは悪化の一途をたどっていました。生活向上には収入増だけでなく、環境問題とそれに起因する衛生問題を漁民の自助努力によって改善することが必須だと気づきました。

この問題は女性が中心となって取り組む必要があります。キリンサイの付加価値向上で意欲的に活動を開始した女性たちに環境・衛生問題に目を向けるよう指導してきました。初めは無関心だった彼女らは、やがて地域の清掃等を自ら進んで行うようになりました。

♣なぜ成功したのか?(まとめ)



ALL Net は海藻養殖の専門家ではありません。しかし不安定だったキリンサイ養殖を安定させて漁民の収入を向上させ、さらに付加価値向上による持続可能な生活向上支援を行い、この事業は順調に進んでいます。その要因は以下のような複合効果だと考えています。

 

◆現地で養殖実績のある海藻であること

◆安定した需要があること

◆女性を活動の中心に巻き込んだこと

◆専門家と連携したこと

♣主な経緯



2010年1月

バリ島付属のセランガン島の零細漁民を対象とするキリンサイ養殖パイロット事業を開始


2012年3月

SULF 1期の贈呈契約締結(セランガン島、スンバワ島)


2012年9月

SULF 1期の事業終了。スンバワ島でのキリンサイ養殖用の筏製作数が200基に到達。

キリンサイ養殖筏
キリンサイ養殖筏

2013年3月

SULF 2期の贈呈契約締結。主支援地域はスンバワ島であるが、セランガン島のフォローも継続


2013年7月

スンバワ島で荒波によるキリンサイ種苗に大被害が発生し、対策として養殖籠方式を検討


2013年9月

SULF 2期の事業終了


2015年9月

SULF 3期の贈呈契約締結


2016年2月

キリンサイ先進国であるフィリピンでの研修を実施。フィリピン大学海洋科学研究所よりアドバイスを受ける。


2016年3月

SULF 3期の事業終了


2016年9月

ELWISの贈呈契約締結


2016年9月

石鹸作りから指導を開始。以降、食品やローションに指導範囲を拡大


2017年9月

ELWISの事業終了


2017年12月

HEWISの贈呈契約締結。

キリンサイ利用食品・化粧品の品質向上とバリエーションを拡大し、キリンサイ利用の新生活スタイルを島民に提案していく活動の指導を開始。


2018年6月

バリ島でヨガデイイベントを共催し、スンバワ島女性16名参加。


2018年12月

HEWISの事業終了


2019年から

フォロー中


♣資料



ダウンロード
SURF-3 報告書.pdf
PDFファイル 14.1 MB

♣関係先



行政機関

外務省

ドンプ県海洋漁業省(インドネシア)

学術機関

フィリピン大学

海洋科学研究所

NPO法人等

Plan International

ANNIE FUND

企業

OAFIC(株)

アウェイク鎌倉